下書き日記

下書き日記

人目を気にせず、断片的に

手紙

ストーリー

 私は駅のホームに立ち、彼を乗せた電車が見えなくなるまで見送った。最後に笑顔で何か言葉のやりとりもしたはずだが、何を喋っていたのかもうはっきりとは思い出せない。 きっと私が彼に対して本当に言いたかったことは言えずじまいだったのだろう。

 そんな欠けた気持ちを引きずったままの帰り道、赤くなった私の目にふと寂れたポストが留まった。

「そうだ、手紙を送ろう。」気付いたら既にそう思っていた。突然の思い付きだったが何か不思議な確信があり、億劫さも忘れて私は来た道を引き返した。

 駅に戻り、駅ビルの百貨店で万年筆とレターセットを買って帰った。事務用品コーナーの端に少なかったが丁寧にレター関連の商品が並んでいた。今時こんなことをしようと思う人が私以外にもいることに少し驚く。 疲れていた私は選ぶのが面倒だったので一番わかりやすい場所に置かれていた商品を手に取り、そのままレジに持って行った。レターセットのパッケージには万年筆の絵が描かれていた。 「そうか、手紙とは万年筆で書くものなのか」と思った私は後から振り返ると特別必要無かったであろう万年筆も買って帰った。いくつもの商品が置かれていたが、違いがよく分からなかったので一番安いものを買った。

万年筆のパッケージを開け、レターセットから手紙用の紙面を取り出す。 そして机に向かい手紙を書こうとするのだが、なぜだか心にブレーキがかかる。

そこで私はこんなものがいきなり届いたら彼も驚いてしまうだろうなと心の中で誰に対して言っているのかよくわからない言い訳をし、レターセットを机の引き出しにしまい、まだ夕方前だというのに眠りについた。

それからしばらく経ち、新しい生活にも慣れた頃に机の中にレターセットをしまったままであることを思い出した。

あの時書けなかった手紙がなんだか今なら書けそうな気がする。

万年筆を手に取る。万年筆を使うのは初めてだ。こんなことでもなければ今の時代にこんなものを使ったりしないだろう。 紙面に滲むインクを見ていると、なんだか私の心の奥からもじわじわと何かが揺れるのを感じる。何かが響き合っている。

手紙に書く内容は何も決めていなかった。前に書こうとしたときはここで躓いたのだが、今は自然と書くべき言葉が浮かんでくる気がした。

「元気にしてますか?急にこんな手紙を送ってしまって驚いているかな?なんだか書いてみたくなりました...」

そう書き出した手紙は驚くほどにすらすらと文字で紙面が埋まっていった。私の中にこんなにも書きたいことがあったのか。

筆を進める内に胸の内に眠っていた彼との思い出が浮かび上がってくる。それを懐かしむとともにこんなにも確かなものが自分の中にしまわれていたことにに驚く。 たくさんの同じ時間を過ごして、胸の中にしまわれた確かなもの。その暖かさというか、確かさが、一寸先の不安な未来を和らげる。

多分、新しい土地に染まっていく貴方は私のことは忘れていってしまうだろう。でも忘れても確かにあの日々はあったのだ。それを貴方にも感じてほしくてこの手紙を送る。

私の手から離れた手紙。彼からの返事は無い。 春風に飛ばされた思いは君に届くことは無いけれど。 また笑えてる自分がいる。前よりも落ち着いた自分がいる。

設定

桜の手紙

・動画の演出 表現や構図が悩みどころ。 著作権フリーの画像を使うとどうしても表現の幅が狭まる。いらすとやのような感じになる。エフェクトで魅せるしかない。

思い浮かんだのは、ペンでサラサラっと手紙を書くように歌詞が現れる演出。 この場合のペンとはどんなペンだろうか。シャーペンで書いた文字はいつか消えるし、思いが十分に乗らない気がする。マジックペンだと少し重いし、子供っぽい。 鉛筆...? 繊細な細いボールペン。カラッとしてるインクの渇きがいいやつ。手紙といえばやっぱり万年筆だろう。

紙はどうするか。コピー用紙?ルーズリーフ?手軽だけど、どうでもいいような感じがする。 特別な理由が無ければ初めて手紙を書く場合はレターセットを買うだろう。

主人公はこの通信の発達したこの時代にわざわざ手紙を書こうとするくらいには重い気持ちを持っている。 →重い気持ちを持っていた。そのことと少し距離が出来た頃に書けるようになるのが自然かな。重い気持ちを持ったまま書く手紙は深夜に書いた作文のように朝見返すととても見てられないものになる予感がする。

手紙に浮かぶペンのインクは彼女の溜まった思いが滲んだものだ。溜まった思いをインクに手紙ににじませようとしている。

わざわざ手紙を書こうと思うような主人公。外面と内面のギャップはある人だと思う。 きっと手紙を送ることを自分一人で決めた。誰かに相談したりしていない。慎重な計画の底には溜まった思いの動力があって。思いがあるからこそ自覚のある部分では慎重になる。 諦めもある。手の届かないところに自分から行ってしまう人に。その人の内側から湧くエネルギーの流れをどうしての自分が止められよう。我儘。 手紙を送るというのが精一杯の我儘。しまってしまった我儘がどうにか顔を出したとき、それが手紙の形を取った。 主人公は手紙を書いているとき、どんな気持ちでいただろう。きっと手紙を書きながら色々な思いを体験した。溜まっていたものが手紙を書くことを通じて、せき止められていたものが緩み、溢れてきただろう。手紙を書くことで許された感情の流れが彼女の中に溢れ出してくる。それはきっと追体験でもある。きっとすっきりした気持ちで手紙をポストに入れた。勿論、そんな思いの付いたものを郵便局やコンビニで出そうとは思わない。たまたま目に付いた寂しいポストに出すはずだ。それは計画的なものではない。出すことを許せる場所をたまたま見つけたのだ。 きっと書き上げた後も、迷いはあったはずだ。下書きはしたのかな?でもきっと溢れ出るままに浮かぶ言葉を書かなければ、それは違うものになってしまうだろう。計画的な手紙ではなく、溢れ出たものでなければ。  それか落ち着いた頃にまた書いたのかもしれない。そもそも、彼女にとって手紙を送るという発想はどこから来たのだろうか。きっと手紙を送るという行為がそのとき自身が溜め込んでいた思いが流れるイメージと合ったのだろう。それでたまたま目に留まった。手紙を送るという発想が電気のように頭の中に現れた。  きっと実際に送るかどうかは書き上げた後に決めたはずだ。やはりここも計画的ではない。そんな思いを抱えていたら計画的な行動など出来るはずもない。手紙を書いて、包装をして、宛名を書いて、住所を書いて...すぐに送れるものだろうか。きっとそれもまたしまっておく。しまっておいた思いを手紙の上に流して、その手紙をまたしまっておく。彼女はそういう感じの人だ。思いはすごく強いが、なかなか出すことが難しい。  手紙を出すのであれば、それは手紙を書くことによって浄化が過ぎたからだ。さっぱりしたカラッとした晴れの気持ちで落ち着いた心で手紙を出す。

手紙の紙質はツルツル?やわらか?ざらざら? この手紙が届く頃にはもう自分のことは意識には無いかもしれない。その寂しさを感じるのが怖くて、机の中にしまっておいた。 机の中にしまわれた思いは 茶色の封筒に書く宛名。糊で封をする。

ふっと書けるときがくる。

彼が上京することは仕方が無いことだ。仕方が無い。一緒には行けないという理由を強化するために相手を年上にする。そうなると自分も来年上京するのでは?地元と都会の対比が崩れる。

彼の性格は?眼鏡掛けて本読んでそう?スポーツマン?社交的? 主人公は高校生だろうな。中学生だと良いアイデアとして手紙を書いちゃいそう。大学生だと遅い。あえて手紙を書くというのは高校生っぽいのではないか。 不安定な感じもある。気持ちをしまってしまう。

お互いなんか不器用だから手紙という距離のある形に落ち着くのかもしれない。 一方的な憧れのようなものがあり、自分に合った形が手紙なのか。

泣きながら書くのか? とまどいながら書き始め、 じんわり目から溢れる水。 最後にはきっと穏やかな顔になる。息とともに。 新しい環境に入る前に送るんじゃないか。君が旅立った日の晩に書く。時間差で送る手紙。

手紙を書く自然なタイミングっていうのがある。 手紙を送る意味合い。結果的には自分の心の整理。応援の手紙っていうのもある。けど、手紙は重い。じんわり重い。湿った気持ち。応援はもっとカラッとしてていい。ガンバレはカタカナで書けるくらいカラッとしている。主人公が手紙を書く必然性は自分自身にある。手紙を書くという行為をすることに気持ちのエネルギーが流れる。

欠けた気持ちのまま街を歩いているときに見掛けた赤いポスト。 そのときに思い付いた。

手紙を書くことの必然性は主人公の内面にあるのではないでしょうか。 心の整理。 上京する彼と別れた後に、

思い出の中に消えたくないっていうのはエゴによるもの。そう思えてる内は元気。 そういう元気を失ってる状態から回復する過程としての手紙を書く。

彼から東京行きを告げられることからこの物語は始まる。若い彼は主人公を東京に誘うだろう。でも主人公は自分が行けないことを薄々気付いている。 君のように羽ばたいていけない自分。目を輝かせている彼の前できっぱりと断ることは難しいし、断ってしまえば彼の東京行きを邪魔してしまうかもしれない。 少し驚いた後、うんと頷いた。その時から、電車で別れるまでもの時間。

彼から東京に行くことを告げられたとき、驚きはしなかった。ついにこの時が来たかという感じだった。私には無い彼のその伸びやかなところに憧れていて、同時に怖くもあった。自分を脅かす感じもあって。 彼は私のことも誘った。明るい彼ならきっとそう言うと思っていた。しかし、それは多分できない。 自分のそんな未来は想像できなかった。東京に行っても浮いてしまうだろう。私はこの小さな街の中で生きていくのが精一杯だった。彼は魅力的な人だから東京に憧れるのもわかるし、きっと東京でもやっていけると思う。でも私は違う。 明るい場所に居る彼はきっとそんなことは見えていない。性格の問題とかそういう風に思っている。でもそれは違う。 どうしようもなく浮いてしまう未来。だから私は東京には行けない。だからといって彼の誘いも断れない。せめて東京に行くまでの間彼を繋ぎ止めておきたいし、彼の未来の邪魔もしたくない。